家出少女と風花寮
お昼ご飯をいただいた後、自室でケータイ小説を読んでいると、扉をノックされた。
「はい」
「私です。お約束のものをお持ちしました」
栞を挟み、机に置いてから扉を開く。
「お待たせしました、大家さん」
「こちらが例のものです」
ひらぺったい紙の箱を受け取る。
「着付けはご自分でできますか?」
「たぶん、できると思います。もし違ったら教えてください」
「わかりました。居間にいますから、いつでも呼んでくださいね」
「はい、ありがとうございます」
大家さんの背中を見送り、扉を閉めた。
さて、着てみましょうか。
着物なら大家さんを毎日見てるから、なんとかなるはず。
さっそく箱を開ける。
「……わぁ、かわいい」
クリーム色に、オレンジ色の花が散りばめられたそれに袖を通し、左が上になるように巻き付けて、帯を締める。
うん、こんなもんでしょう。
一緒に入っていた巾着に財布とスマホを入れる。
自室を出て、居間に向かった。
「大家さん、できました」
居間をのぞくと、寮のみんなが浴衣に着替えていた。
「福井氏、よくお似合いですぞ」
一番近くにいた青木君が褒めてくれる。
「ゆきちゃんかわいいよ。りおちゃんには負けるけどね」
中島君は青木君にウインクする。
「いいと思うよ、似合ってる」
アキ君は微笑んでくれる。
「兄さんがいちばん可愛い」
シュウ君の兄愛の前では皆等しくモブ。
「綺麗に着れていますよ」
大家さんからお墨付きをもらえた。
「………」
私は、唯一感想をもらえていない北山君を見る。
「………」
北山君はこちらを見ない。
……だめですね。
何か言ってもらえることを期待しているなんて。
自然と視線が落ちていく。
「……っ、てるから」
「?」
何か言われた気がして、首を傾げる。
「………似合ってるよ」
「………ありがとう」
「あれー? きーちゃん照れてるぅ?」
「黙れチャラ男」
「ひどいっ」
北山君の顔を見に行った中島君が顔面を鷲掴みにされていた。
ざまあみろとばかりに青木君大笑い。
「それでは私、行ってきます」
「いってらっしゃい」
「気をつけてね」
「はいっ」
用意してあった下駄を履いて、集合場所へ向かった。