家出少女と風花寮
「おかえりー、誰だったのー?」
「察しろバカ!」
「痛ったい! なんなのりおちゃん!」
中島君が明るく問いかけてきたが、青木君が引っ叩くことで制する。
「お繋ぎしない方が、よかったですね。すみません」
「痛っ! 大家さんも、なんなんですか!」
眉間に皺を寄せ、眉尻を下げた大家さんも、中島君を引っ叩く。
「………私、そんなわかりやすい顔してますか?」
皆に問いかけると、横に立った北山君に、あやすように頭を撫でられた。
そんなにわかりやすい顔してたんですね。
「すみません、大家さんが悪いわけじゃないんです。ただ、妹と折り合いが悪いだけで……」
「何、妹から逃げてきたの? ボクたちを見習いなよ」
「ストーカーは黙ってて」
園田弟に兄がツッコミを入れた。
君たちは決して、見習うほどの仲良し兄弟ではなかったはずだ。
「えっとー……」
私は、中島君の手にある本を指差す。
「なんだい、福井氏。その本でこの失礼な奴を叩けばいいかい?」
「角をぶつけよう。ボクみたいに非力でも威力が出るはずだよ」
「兄さんが手を汚さなくていい。ボクがやる」
「死なないように場所は選んでくださいね」
「頭は避けた方が無難か」
「ちょっと待って、みんな、なんでオレばっかり!?」
大ごとになってる気がしますが、そうじゃなくて。
「その本、書いたの妹なんですよね」
そう言った後の皆の顔が、鳩が豆鉄砲を食ったようだった。