家出少女と風花寮
見送って、心の中で合掌していると、隣の北山君に見られていることに気づいた。
「ご心配をおかけしまして、申し訳なく思っています……」
タオルを外して、頭を下げる。
「わたくしごとで、ほんとすみません。全部、私が悪いんですよね。何もしなくて、羨んでばかりで、自分が頑張れよって話で……。いつも妹に言われるので、頭ではわかってますから」
行動に移せないだけで、それがいちばん罪深い。
「……まだ何も言ってない」
「いえ………。何か言いたそうに見えたので、聞かれてもいない言い訳をつらつら述べまして、はい………」
墓穴掘った感が、ひしひしと。
両手で握りしめたタオルに深い皺が寄る。
「顔、あげろ」
言われるがまま、おそるおそる目線を上げていく。
北山君は、怒っているようには見えなかった。
「あんたが極端に自信がないのはわかった」
自信がないというより、事実ですが。
「そうだな………。あんたも小説、書いてたんだろ。もう一度書いてみるのはどうだ? 今なら書けるんじゃないか?」
何をおっしゃるんですかこのお方は。
「……想像力が無いから、無理だよ」
「無理と決めつけるのは早いですぞ! 皆、初めは手探りでござるよ」
青木君が話しに入ってくるのを皮切りに、次々と混じってくる。
「ゆきちゃん、オレとりおちゃんがラブラブになる話を作って欲しいなー?」
「何書かせる気だ! 福井氏、僕じゃ萌えないから、双子をネタにしてはくれまいか!」
「僕が兄さんを甘やかして、兄さんも僕を愛してくれる話なら、書いてもいいよ」
「物語の中だけでも、シュウを落ちこぼれにして?」
「ふふふ、これだけ周りに期待されれば、書けないなんて、言ってられませんね」
キッチンからでてきた大家さんの手には、赤い汁のついた包丁が握られていた。
気づいた面々がヒュッと、息をのむ。
「心外ですねぇ。………みなさん、スイカが切れましたよ」
ベタながら、恐怖の演出である。
喧嘩を止める方法が、皆で仲良く水菓子を食べる。
「………………ぁは、ははは………」
感情が迷子になって、乾いた笑いしか出てこなかった。
福井幸という私は、風花寮の皆さんの協力のもと、変わっていけそうな気がします。