翻弄される男
翻弄される男
「篠崎サン、今日こそランチ行ってくれるよね?」
一際目立つ、通る声で、今日もアイツがひなのに持ちかける。
デスクが、隣同士のひなのは、あきらかに迷惑そうな面持ちで、何度聞いたかわからない台詞を今日も口にした。
「結構です」
「あ~あ、やっぱりまたそれか~。じゃあ、いつだったら、俺とランチ行ってくれるのかな?」
「ずっと行きません。一生行きません。死んでも行きません」
あんな冷たい彼女の顔は、見た事がない。
あれだけ突き放されていても、全く動じないアイツは、やはり変わり者としか、言いようがないな。
……いや、もしかしたら、それ程までに、ひなのに本気という事なのかもしれないが。
アイツ……上野隆太は、先月違う部署から異動して来た新人で、指導役には何故か島田が抜擢された。
故に、島田のデスクに訪れては、隣の俺にも構わず、ひなのの事をペラペラと島田に訊き込んでいる。
そんな時、島田はチラリと俺に視線を送りながら、迷惑そうに上野の弾丸のような質問を、機敏に回避しながら、指導をしている。
『おりれるものなら、おりたい』
と、指導二日目にして、島田は苦笑し、ぼやいていた。
俺が島田の立場だったら、初日で白旗をあげていただろう。
いや。
寧ろ直接、別れろとぶつけられていただろうな。
< 1 / 16 >