退魔術師
時間の許す限り彼女は家族とたわいのない話をした
生きている時は当たり前と思っていた会話さえも
生前もっと話をしていればと後悔に変わる
それは仏壇に飾られた自分の写真を見て実感する
もう私に未来はないんだと
現実に引き戻される
死んだのが夢だったらいいのにとさえ思う

頃合いを見計らって退魔師は彼女にしまっていた封筒を差し出した
言わなくても分かっているのだろう
彼女にとって最後の仕事だということを
渡したら終わってしまう
でもそれも良かったと思えるのは何故だろうか
家族の元に帰ってこれて幸せを感じたからだろうか

彼女は受け取った封筒と紙袋をそっと抱き締めた
< 30 / 71 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop