雨のふる季節に。
「七瀬!」
この声は、と後ろを振り返る。
何で追いかけてくるのよ。
負けじと私も走って走って、でもさすがに男子には勝てない。
「なんで逃げるんだよ」
へとへとになって、屋上で寝転がりながら、時雨は言った。
「追われて逃げない、犯人はいないっすよ」
「いつから犯人になったんだよ」
「時雨のキス逃げの犯人です」
そう言って、私は右手を挙手した。
っはは、と時雨は笑った。
そう言えば、時雨の満面の笑みを見たのは、これが初めてかもしれない。
「知ってたよ、キスしたの」
「ええ!!マジッすか」
さらっと言う時雨に、心から驚いてしまう。
「だってさ、本当は寝てなかったもん。
泣きそうになってた時に七瀬が来て、
やばいと思って寝たふりしたら、
キスされたからねー」
「知ってたんっすか」
「知ってるもなにも、
感触だって覚えてるよ?」