雨のふる季節に。
いいっすよ、と私は軽く言った。
いつかタイミングを見計らって、今日の過ちを告白しよう、と考えたのだ。
「ねえ、七瀬」
男子から名前を呼び捨てされたのは、初めてだった。
「は、はい!」
「俺の名前、言ってなかったよね?」
こくんと首を振った。
「上矢時雨」
「綺麗な名前っすね」
「しぐれ、って響きはいいけど、
雨って入ってるんだよね」
本当に、綺麗な名前だと思った。
「そんなに、雨嫌いなんですか?」
「雨を見るとね」
そこまで言って時雨は、言葉を切った。
そして、保健室の窓にゆっくりと流れる雨の粒を、白い指でなぞるようにして、続けた。
「雨を見るとね、
どうしようもなく、
泣きたくなるんだ」
そう言った時雨は、今にも涙がこぼれてもおかしくないような、悲しい顔をした。