雨のふる季節に。

いいっすよ、と私は軽く言った。


いつかタイミングを見計らって、今日の過ちを告白しよう、と考えたのだ。




「ねえ、七瀬」


男子から名前を呼び捨てされたのは、初めてだった。



「は、はい!」


「俺の名前、言ってなかったよね?」


こくんと首を振った。




「上矢時雨」


「綺麗な名前っすね」


「しぐれ、って響きはいいけど、
雨って入ってるんだよね」



本当に、綺麗な名前だと思った。



「そんなに、雨嫌いなんですか?」


「雨を見るとね」


そこまで言って時雨は、言葉を切った。


そして、保健室の窓にゆっくりと流れる雨の粒を、白い指でなぞるようにして、続けた。




「雨を見るとね、
どうしようもなく、
泣きたくなるんだ」



そう言った時雨は、今にも涙がこぼれてもおかしくないような、悲しい顔をした。





< 3 / 14 >

この作品をシェア

pagetop