雨のふる季節に。
もしよかったら、と小さな声で言った。
「もしよかったら、
その人のこと教えてほしいな」
その時、本当に自分がその話を聞きたかったのかは、分からない。
だけど、聞かないと、もうこれからがないように思えたんだ。
「俺の姉ちゃんだったんだ」
時雨は立ち上がり、また雨を指で窓越しになぞった。
「年が8歳離れてて、
物心ついたときにはもう、中学生だった。
皆俺の顔を見て、可愛いとか言うけど、
美緒は、比べものにならなかった」
時雨は、格好いいよりも、可愛いの方が強い。
確かにこんな顔をした女の子がいれば、最強だ。
「本当に綺麗で、本当に優しかった。
ずっとずっと好きだった。
誰よりも、好きだったんだ」
胸がいきなり締め付けられた。
どうしてだろう。
一瞬、すごく泣きたくなった。
「結婚したんだ。
ジューンブライドなんて、
ロマンチックなことして。
俺さ、俺・・・・・・」