雨のふる季節に。

もしよかったら、と小さな声で言った。



「もしよかったら、
その人のこと教えてほしいな」




その時、本当に自分がその話を聞きたかったのかは、分からない。


だけど、聞かないと、もうこれからがないように思えたんだ。




「俺の姉ちゃんだったんだ」




時雨は立ち上がり、また雨を指で窓越しになぞった。




「年が8歳離れてて、
物心ついたときにはもう、中学生だった。
皆俺の顔を見て、可愛いとか言うけど、
美緒は、比べものにならなかった」




時雨は、格好いいよりも、可愛いの方が強い。


確かにこんな顔をした女の子がいれば、最強だ。




「本当に綺麗で、本当に優しかった。
ずっとずっと好きだった。
誰よりも、好きだったんだ」



胸がいきなり締め付けられた。


どうしてだろう。


一瞬、すごく泣きたくなった。





「結婚したんだ。
ジューンブライドなんて、
ロマンチックなことして。
俺さ、俺・・・・・・」









< 6 / 14 >

この作品をシェア

pagetop