雨のふる季節に。
「だけど、美緒起きちゃったんだ。
それで自分の唇押さえてさ。
俺、焦ったよ、本当に。
で、もっと焦ったのは、
いきなり告り出した自分」
ははは、と時雨は笑った。
声は笑っているのに、私から見える横顔は少しも笑ってなんかない。
「美緒優しいから。
あの時、馬鹿!とか言って、
俺の頬をビンタしてくれれば、
踏ん切りついたのに・・・・・・。
ごめんね、ごめんねって何度も、
繰り返して泣いたんだ」
声が震えている。
泣くのを一生懸命堪えようとしている。
「美緒は普通にしてくれるけど、
俺はそうはいかないよ。
結婚式のときも、俺を度々見ては、
すまなさそうな顔をしてて。
別に美緒が幸せなら、それでいいのに」
ひっく、と私は息を吸った。
それに驚いて、時雨が振り返って、私の顔を見る。
鼻水も出るわ、涙で目は赤いわ、まともな顔じゃないことは、重々承知だ。
「なんで、七瀬が泣くんだよー」
時雨は困ったような顔をした。
「だって、だって・・・・・・」
自分の思いが、うまく言葉にならない。
すると、時雨は体を起こし、私を抱きよせて頭を撫でた。
ゆっくりでいいから、待つから、と時雨は言った。
呼吸を整えて、鼻水を強く吸った。