-かなめひめ-
 それからも、燈と玲奈は、転校生からイケメンの定義、と話題をころころと変えて会話していく。

 そして、犬派猫派で激しい論争を繰り広げていると、突然教室の前のドアが勢いよく開いた。


 思わず二人同時にビクッと、身体を震わせると、ドアからそろそろ頭頂部が禿げかかっている、ガタイの良過ぎる強面のおっさんが、のしりのしりと入ってくる。


 2-2担任、田中智。


 名前は平凡なくせに、教師になる前はレスラーになることを夢見て過酷な特訓をしていたと言われる男だ。

 奴に反抗したら将来的にも身体的にも終わりと考える生徒もいる。


 燈たち含め、追いかけっこをしていた男子、窓側で複数人で会話に花を咲かせていた女子組、その他諸々が、次々と席についていく。

 それを見ていた田中教諭、静かに頷くと、ゆっくりと口を開ける。

 数年掛けて作り上げた機械を始めて動かすような緊張感が、教室内に立ち込め、充満し始める。


「...転校生だ。このクラスに加わることになった。
...入れ」


 短縮し過ぎな田中教諭の話に、私は目を見開くのを自分で感じていた。


 転校生。
 その単語を聞いた燈は驚き、思わず玲奈に目配せすると、玲奈も燈を見て頷いた。


 田中教諭はドスの聞いた低い声で、開けっ放しのドアに向かって入るように促す。

 やがて、その人物____転校生が、教室内に入ってくる。




 180はありそうな高い身長、
 所々、毛先がハネた黒髪、
 肉食獣のような鋭い眼光を携えた黒目。




_____真っ黒な狼。





 燈の転校生の第一印象が、それだった。
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