-かなめひめ-
 そのまま授業に移り、燈が最も苦手とし最も憎む数学となった。
 後ろから何やら視線を感じ、それに緊張したまま時間は過ぎ去っていき、休み時間になった。


 終わりのチャイムが鳴った瞬間、燈以外、シキガミの周りにいた男子女子が、すぐさま席から立ち上がり離れていった。

 恐らく、シキガミを「怖い人」に認識してしまったからであろう。
 なるべく関わらないようにしようとしているのだ。

 ノートに何やら書き込むシキガミと、周りに誰もいなくなったことで意識が白くなってきた燈、二人だけがここに残った。


「(あんの弱虫共がぁ...!
私一人置いて尻尾巻いて逃げやがって...!)」


 燈は一人、怒りに燃えていた。
 今、この得体の知れない真っ黒な狼と二人牢の中である。燈と狼は、遠くからじっと見つめ合っている状況にある。

 逃げ場もない、隠れる場もない。ここで逃げてしまえば、明らかにシキガミに怪しまれるだろう。

 さぁどうするか。
 どうこの状況を脱するか。


「(覚悟決めるしかないのか...!?)」


 燈は悩む。そして色々考える。
 最初に思いつき、一番手軽で、最大にして、最強に難関な方法。
 それは、


 話しかける。


「シキガミさん」

「...?」

 ...話しかけてしまった。
もうこれしか思いつかなかったんだ。脳筋に変な期待を持たせては困る。

 仕方ない、腹を決めるしかない。

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