-かなめひめ-
こうして、燈は「紅慈神社」に足を運んでいた。
今は夕暮れ時。空は澄んだ青から暁の色に染まり、地平線にまで沈んだオレンジの陽光が、神社に続く木々に囲まれた階段を妖しげに照らしていた。
風に揺れる木の葉の擦れる音が、人間の囁き声にも聞こえるような気がした。
ちょっとした恐怖と好奇心を味わいながらも、燈は足を進めていく。
見えない何かに糸で引き寄せられるかのように、燈の身体は徐々に「紅慈神社」にへと近づいていく。
「...こんなに、階段長かったっけ」
変な違和感を感じ始めたのは、空が暁色から深い藍の色、真っ暗になり始めた時であった。
この神社の階段は確かに長いものだったため、最初の頃は疑いの微塵もなかったのだが、ここまで長くはなかったような気がする。
体力が以前より落ちてきたから、そう錯覚するだけの話かもしれないが。
ただ、夜になりかけの神社への階段とだけあって、場の不気味さはかなり増してきている。
何か出てきそうで、心臓はとっくのとうに早い鼓動を打ち始めていた。
「やっぱり...やめときゃよかったな」
ここで今更後悔しても、遅すぎた。
遅すぎたのだ。
「...!?」
何か地面に落ちたような...水滴の音。
勿論、雨など降っていない。
しかし、確かに、燈の耳にそれは入ったのだ。