-かなめひめ-
 水道から雫が落ちたような水滴の音。

それが、次々に____連続して聞こえ始めた。



「...何...なの...この音」



 いつの間にか風は止んだらしく、音を鳴らしていた木々は静かになっていた。
 そのためか、今の周りは無音となっている。

 それが余計に自分を煽り立てて、恐怖という水を、身体というスポンジに吸収させていくのだ。


 背筋に凍えるような寒気がした。

 水滴の音が、徐々に近づいてくるように大きく聞こえてきたからだ。


 段々恐ろしくなってきて、燈は棒のような足に何とか力を込めて、その場から後ろを振り向いて階段を下りようとする。




 燈は駆け下りる足を止めた。




 後ろに___背後に、誰かいるような、気配がする。




 振り向いたら、何かが終わってしまうような_____自分の人生を、大きく変えてしまうことになってしまうような。




 まるで大きな選択を迫られているかのようだ。





 燈は選んだ。






 そして、ゆっくりと、背後を振り向いた。





 血が全部抜けているのではないかと青白い顔。

 耳まで避けているような、口角を限界にまで上げた赤い唇。


 見ただけで慄いてしまうそんな恐ろしい女の顔が、燈の鼻先すぐ先にいたのだ。



「....ッ!!」






 声が出ない。




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