-かなめひめ-
02
連続した電子音が遠くに微かに聞こえ、意識を目覚めさせた燈は、薄く瞼を開ける。
微妙に開いた若草色のカーテンの間から、徐々に明るくなりつつある空が見えていた。
今だに鳴り続ける目覚まし時計のボタンを押し、現在時刻を確認。
アナログ時計の針は、5時ぴったりを指していた。
燈は時間を有効に使うために、いつも5時に設定をして早起きをしているのだった。
風呂も入らず、夕食さえも食べなかったために、髪はボサボサで身体は汗でベタつき、腹の虫は空腹を音で訴えている。
時間もある、風呂に入ろう____そう思い立った燈は、制服のまま替えの下着を持って、隣の寝ている両親を起こさぬよう、一階への浴室を目指す。
温かいシャワーを頭上から浴び、さっさと身体と髪を洗い流して、浴室を出た。
髪をタオルで乾かしていると、不意に右手首が目に入った。
赤黒い手形に、明らかに広がりつつある黒い筋に、燈は気持ちを沈めた。
頭の何処かで、昨日のことはまさか嘘ではないかと思ってはいたが、やはり本当のことだったのだ。
信じたくはないが、現に手首がこうなってしまっているのだから、無理矢理にでも信じるしかない。