-かなめひめ-
七時半。
随分遅めな起床時間だが、高校はこの家から徒歩で行き帰りできる程の近さなので、こんな時間でも余裕である。
眠たげな目を擦りながら、階段を下りる制服姿の燈。そんな燈に、燈の母親____仄加≪ホノカ≫が、穏やかな笑みを向けた。
「おはよう燈。____随分と眠たげね」
「....うん、おはよう。
大丈夫、いつものことだよ」
「昨日は元気よかったじゃない」
頭に?マークを浮かべる母に燈は苦い笑みを浮かべながら、テーブルの上に置かれてあったサンドイッチを手に取り、口に頬張る。
何の水分を含んでいないサンドイッチは、元からカラカラな口の中の水分をさらに吸い取っていく。
コップに牛乳を注ぎ、口に含む。それを渇いた喉を潤していく。
適当に髪を梳き、赤いリボンをいつもの所に結ぶ。鏡で確認をしてから、巾着袋に入った弁当箱を手に、バッグを肩に掛け、玄関に向かう。
靴を履く燈の背中に、駆け寄った母が声をかけた。
「燈、気をつけるのよ。
いってらっしゃい」
「....うん、行ってきます」
母は、右手首に巻かれた包帯にはどうやら気づいてはいないようだった。
できれば気づかないで欲しい。でも、この事について相談もしたかった。
でないと、潰されてしまいそうだ。
式神の声が脳裏に過る。
______あんたを殺そうと躍起になる。
今は自分の親でも、一歩外せば殺人鬼になる。
優しい笑みを浮かべていた顔は、般若のように歪むのだろう。
その手は、何が何でも自分を殺そうと尽くすのだろう。
もう、泣きそうだ。