-かなめひめ-

 今日も快晴だ。

 朝なのに、早速真夏の暑さを醸し出してきて、額はじっとりと濡れ始める。

 青い空の中、太陽が爛々と輝いている中で、燈の心は曇り空のように憂鬱だった。


 いつも通学に使う道をとぼとぼと歩いていると、あの紅慈神社に続く階段が見え、思わず身を固くした。

 自分の普通だった人生を大きく変えた、半ば恐怖の対象にまでなっている紅慈神社。
 だが、この前を通らなければ高校に行けない。高校への道はここでしか判らない。

 燈は目を伏せて、早歩きで紅慈神社の前を早く通過しようとした。


「...有宮?」


 前方から声が掛けられる。

 思わず顔を上げると、ネクタイをしたままのワイシャツ姿の式神が立っていた。袖を捲り上げ、高校のブレザーを脇に抱えている。

 相変わらず、頭の髪の毛は犬のようにもさもさとして、毛先はハネていた。寝癖...というより、癖毛、だろうか。


 この時、式神の家は、確かこの近くだったことを思い出した。
 そう考えると、やはり自分の家とはだいぶ近いのだなと思える。


 燈は地獄の中で仏を見つけたかのように顔を明るくさせると、式神の側まで走り、その横に並ぶ。


「おはようございます、式神さん」

「あぁ。...隠したか?」


 もはや予想通りの問いに、燈は包帯に巻かれた右手首を持ち上げ、式神に見せる。

「包帯で巻いてみました。
これなら、怪我したって言えばあまり怪しまれないし」

「...まるでリスカしたみたいだな」


 その答えも予想通りだった。
 燈は息を吐いた。

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