-かなめひめ-
高校に到着し、下駄箱にて上履きに履き替える。式神と共に教室に向かうと、いつもの騒がしさを見せていた。
追いかけっこをする男子たちにぶつかりそうになって舌打ちをしたり、廊下に広がって談話する女子たちに苦戦しながら、二人は教室に入れた。
それにしても、式神は人を避けるのが地味に上手いような気がした。
それはもう、すいすいっと、スムーズに。
席につき、暑さも眠さもあってか、また上半身を机に投げていると、玲奈が寄ってきて話しかけてきた。
「おっはー、あっかりん!」
「....うん、おはよう」
眩しすぎる玲奈の笑顔に何となく目を細めてしまった燈は、憂鬱げに小さな声を返した。
いつもと違う燈に、玲奈は腰を曲げて、燈の顔を覗き込んだ。
「あれれー?燈さん、元気ないよー?」
「...色々あってね。疲れちゃった」
「ふーん?燈に悩みなんてなさそうだけどね。
...あれ?」
玲奈の何かに気付いたらしい声に、燈は伏せていた顔を上げる。
玲奈の両目は、燈の包帯に巻かれた右手首を凝視していた。燈は右手を持ち上げ、左手で何となく触れてみる。
「あー、これね。
怪我したんだ。刃物でうっかり切っちゃって」
印があることを隠すためそう言い訳してみれば、玲奈は「信じられない」と言った表情で燈を見つめる。
「あ、燈ってば、まさかリスカ_____」
「リスカじゃないってばー!」
式神といい玲奈といい、何でそんな予想通りな事を言うのだろうか。
というより、そんなことをしてしまったかのように見えてしまう感じにした自分が悪いのだろうか。
印は、日々徐々に大きくなっているように思える。
大きくさせて目立たせ、より気づきやすくするように企んだ<かなめひめ>のせいなのだろうか。
どっちしろ、私はこれを隠し通さなきゃいけないのだ。