恋する乙女の大追撃
もっと近くで見たい。
そう思い立った時にはもう身体は動き出していて、
「きゃあっ」
「押さないでよ!」
彼に少しでも近づきたくて、必死で人垣を掻き分けた。
もう少し…。
「はいはーい。静かにしてね。タケトの機嫌が悪くなっちゃうからね~」
もう少し近くに…!
__ドサッ
「……」
『……』
人を無理矢理掻き分けた結果、輪の中に飛び出してしまったあたしは手をついたものの虚しく顔面強打を喰らった。
さっきまで溢れていた歓喜の声は何処かに消え去り辺りはしーんと静まり返る。
「イテテ…」
あたしが痛みに耐えながら顔を上げると、ずっと待ち焦がれていた彼があたしを見下ろしていて胸が高鳴った。
「……」
「……」
まるで彼とあたしだけしかいないように感じた。
「大丈夫?」
不意にあたしの安否を確認する声が聞こえてハッする。
声の主はタケトの連れ、奥村祐真だ。
「え…、あっ、はい」
手を差し伸べるユウマの手を取ると、悲鳴に近い叫びが響き渡った。
「君、一年生?」
「は、い…」
『誰よ、あの女…』
『ユウマ君に触らないで~!!』
未だ、女達の悲鳴は止まない。
「るせぇ…」
しかし、その一声で辺りは再度凍りついた。
「おい、ユウマ。誰だそのブス」
……ん?
あれれ?耳がおかしくなっちゃったのかな~?嫌だねぇ。まだ人生の五分の一も生きてないのに、あたしったら~。
「行くぞ」
「ユウマ」
颯爽と歩いていくタケトの後をついて行く風切礼央がユウマを呼ぶ。
「あいよー」
タケトとレオの声に軽い返事を返し、あたしの横を通り過ぎるユウマ。
「次はないよ」
微かに聞こえた声は奥村祐真の声。恐らくは、忠告したのだろう。
___出しゃばってくるな、と。