Dear・・・
すると、後ろでドアの開く音がした。


「休みだからってだらけ過ぎじゃありませんか?」


はっと慶介が振り向くと、そこにはドアにもたれかかり微笑む翔太がいた。


「待っててって叫んだの聞こえなかった?てか、何しに来たのさ」


服を探す手を休め、翔太に尋ねた。


「理由が無きゃ来ちゃいけないんですか?」


部屋の戸を閉め、慶介の方へと近寄っていく。


慶介は、その行動一つ一つを逃す事無く目で追う。


翔太の手がそっと伸びる。


手を握られるのかと、慶介は少し構える。


しかし、翔太の手は慶介の手を通り過ぎ、洋服ダンスへと伸びていく。


「海、行くから今日はこれ着なよ」


そう言い、Tシャツを一枚取り出した。


「は?海?」


「そう、海。デートすんの」


掴み所のない笑みを浮かべ、翔太は慶介に服を手渡した。


慶介は何かを言い返す事も忘れ、言われた通りその服に着替えた。


その間、翔太は布団にいるハツにじゃれ付いている。


「そういや、学校は?今日、確か授業ある日だよね?」


「サボった」


慶介は驚き、着替える手を止めた。


翔太の手からハツは逃げ出し、物を落としながら棚の上に飛び乗った。


「そんな驚かなくても。俺だってそう言う気分になる時もあるんだよ」


本棚から漫画を取り出し、寝転がり読む。


小さい頃から真面目だと親たちから褒められていた翔太のその言葉に、慶介は反応に困っていた。


普通に戻ったと思っていたが、翔太はまだ気にかかることがあり、わざわざ会いに来たのだろうか。


部屋が静まりかえる。
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