Dear・・・
「慶介、その中途半端な格好どうにかしたら?」


翔太は漫画を見ている目を僅かに慶介に向け言った。


上半身裸で、Tシャツを腕だけ通している状態。


慶介は妙に恥ずかしくなり、急いで着る。


翔太は含み笑いをして漫画に視線を戻した。





「さ、準備できたし行こう」


洗面所から帰ってきた慶介が言った。


サングラスをかけ二人は並んで家を出た。






慶介の家から海までは目と鼻の先。


あっという間に着いた。


「なんで急に海なのさ」


夏は人で溢れかえるこの場所も、五月は悲しいほど人がいない。


波の音が心地良く耳に入る。


潮風に吹かれ、並んで砂浜を歩く。


「気分だよ。慶介と一緒にいたいなあっていう」


翔太に笑顔を向けられ、慶介の胸が瞬間高鳴る。


先ほどまで、翔太の行動に戸惑っていたが、今この瞬間が楽しくて仕方なくなった。


「ついでだし、江ノ島行こうか」


江ノ島大橋に差し掛かったとき、慶介が言った。


しかし、翔太の顔が悲しそうになる。


「え?いや?」


戸惑う慶介。


「いやって訳じゃないけどさ…江ノ島ってカップルで参ると別れるとか言うじゃん」


いつも大人びる翔太が、迷信ごときに怯えるその姿は妙に愛らしい。


慶介は微笑む。


「あれって女に対してやきもち妬くんでしょ。俺ら男だし大丈夫だって。縁結びの神様なんだし、さ、行こう」


言った後にこの自虐的な言葉を後悔した。


なんとか笑顔を作り、江ノ島へ向かった。
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