Dear・・・

夕方[Kyoko.side]

「ただいま」


夕方の秋山家に香子の声が響く。


綾が玄関へとやって来た。


「おかえりなさい」


綾はビニール袋を受けとり、キッチンへとさっさと向かっていった。


せっかく買ってきた雑誌を渡しそびれた。


まあ、後で渡せばいいだろう、と香子はその後姿を見送り二階へと行った。


治がいるであろう寝室へと入る。


と、そこには治の姿がない。


香子が朝、出かけた時から何一つ変わらない風景。


だが、クローゼットを開けた時、治が唯一持ってるスーツがないのに気づいた。


「あ、オーディションか」


一人で小さく囁き、くだらなさそうに鼻で笑って着替え始めた。


服をハンガーに掛け、鞄を奥へと入れる。


その前に、ちゃんと鞄から雑誌を出す。


そして、MDも。


由香にインディーズ時代の曲をまとめたMDを無理矢理渡された。


レアだと由香は押していたが、やはり分からない。


香子はMDと雑誌を手に持ち一階へと降りる。


「綾、お土産やよ」


「え、何?」


声を弾ませて香子へと駆け寄っていく。
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