Dear・・・


まだ物を見ていないのに、すでに顔はほころんでいる。


そして、雑誌とMDを渡された瞬間、満面の笑みになった。


「やったあ、O・C・Tやん。めっちゃ嬉しい!綾が好きや言うてたん覚えててくれたん?」


嬉しそうに雑誌をめくる。


その顔を見てるだけで、香子もどこか嬉しくなった。


「なあ、このMD何?」

「お母さんと一緒にお仕事したはる人でそのグループ好きな人おって、その子らの曲を入れてくれはってん」


「え!すごい!…聞いて来たあかん?」


綾はMDと雑誌を胸に抱きしめ尋ねてくる。


その表情は聞きたくてうずうずしている。


「良いよ」


優しく微笑む。


「ありがとう!今日片付け手伝うし、明日はもっともっと手伝うし!」


そう言うと、駆け足で二階へと上って行った。


それを香子は笑顔で見送った。


香子は一人で、夕食の準備を始めた。


しばらくして、大きな音を立てて玄関のドアが開いた。


その力強い元気な音からきっと和也であろう。


香子がキッチンから顔を覗かせる。


「和也?」


「いや、俺だ」


治の声だ。


「ああ、あなた。おかえりなさい」


瞬間に香子の声のトーンが下がった。


しかし、治はどこか声が弾んでいる。


「おう、ただいま」


「元気やね。オーディション受かったん?」


「あ、んー」


香子に素っ気無く答えると、ダイニングのテーブルの横に鞄を置き、テーブルの上に携帯を置いて二階へと上っていっ>た。


先ほどの綾の嬉しそうな時とは違い、治の嬉しそうな顔はどうしてこれほどにも腹立たしいのだろうか。


香子は一呼吸つき、ダイニングテーブルを拭きに行く。
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