Dear・・・

夜[Osamu.side]

平日の夜。


秋山家のキッチンが騒がしくなる。


少し帰宅に遅れた香子はスーツのまま準備に取り掛かった。


雑誌を買って帰ってきて以来、綾は以前にもまして母を手伝うようになった。


せっせと袋の中身を冷蔵庫へと入れていく。


慌しいキッチンとは対照的に、リビングの治はソファーに寝そべり、ゆっくりとテレビを見ていた。


「あ、今日のご飯トンカツやろ!」


袋の奥に入っていた豚肉を取り出した時、綾が言った。

「ピンポン」


香子が綾の頭を撫でる。


「だから今日はお手伝いはいらんよ。油で危ないからね」


そう言われ、綾はさっさとキッチンを去る。


階段を上ろうとした時、一度呼び止められた。


「あ、綾。お部屋でお勉強してなさいよ!」


「はーい」


勉強という言葉に、ふてくされながら返事をし二階へと上っていった。


一階は香子と治の二人きり。


当たり前のように会話は一切なく、テレビの音が空しく響く。


しばらくは何の音もしなかった時、電子音がけたたましく鳴り響いた。


リビングの治の携帯の音らしい。


治は特に発信者名を確認する事なく、ソファーに寝そべったまま電話に出た。
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