Dear・・・

電話

「もしもし」


治が呼びかける。


しかし返事は一切ない。


「もしもし?」


再度呼びかけるが変わらない。


いたずら電話か、と切ろうとした瞬間、微かに声が聞こえてきた。


耳元に近づけちゃんと聞き取ろうとする。


「もしもし」


若い男の声。


治の脳裏に、すぐさま一人の男の名前が浮かんだ。


叫びたいほど愛くるしい名前だが、今は近くに妻がいる。


「慶か?」


香子に気づかれない程度の小声で言う。


しかし、相手からの返事はなく再び沈黙が続く。


もう一度治が呼ぼうとした時、その声を掻き消し相手が怒鳴った。


「てめえ、誰だよ。慶介とどんな関係だよ」


あまりの声の大きさに、電話口から声が漏れる。


「答えろよ。てめえは誰かって聞いてるんだよ。慶介とどんな関係だよ。あ?日本語分かるか?」


様々な言葉で治を罵倒する。


治は何とか冷静に対処しようとするのだが、いきなりの事で対応しきれない。
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