Dear・・・
「あーあ、合コンかよー俺呼べよー」


陰気臭く、小さな声で愚痴を言う男。


「お前は合コン言っても出来ませんから!」


ケラケラと笑う礼人に、男の顔がむっとする。


「翔太、お前は俺を置いて彼女作るなよ」


男は落胆した面持ちで、同志を求めた。


しかし、翔太はそれを流した。


「俺、彼女いるよ。二歳上の」


いきなりの発言に場が騒然とする。


そして、慶介は一体翔太が何を言い出すのかと、全く理解できずにいた。


その中で博昭は、予想される発言に胸躍っていた。


全員、次の発言へと耳をそばだてる。


いきなりの事に身を乗り出し、翔太に尋ねる。


慶介は不安な眼差しで翔太を見つめていた。


瞬間、翔太と目が合った。


そして、翔太はいたずらな微笑を浮かべる。


慶介はその笑みに背筋が凍った。 


「なんて、嘘だよ。う・そ。女とかに盛ってる暇あったら勉強か練習してるって」


その言葉に場の空気が和む。


「それでこそ翔太だ!」


男が嬉しそうに抱きつく。


翔太は笑顔でそれを拒んだ。


博昭はつまらなさそうに煙草に火を付けた。


「じゃあ俺、帰るわ。親が帰って来いって言うしさ」


そういうと、翔太は誰にも有無を言わせぬまま、店を出て行った。


翔太が去った後も、特に騒がしさが減る事はない。


翔太におちょくられた男は、未だに小ばかにされている。


その中、慶介は一瞬の出来事にどっと疲れを感じていた。


「翔太に彼女とかびっくりしたよな」


博昭が慶介の横へと移ってきた。


翔太がダメなら慶介に、という感じに、博昭はいまだ二人の関係を知らされるのを期待していた。


「もし彼女出来たら俺らに言わないわけないもんな」


大人びた翔太とは違い、幼い笑みで笑う博昭。


慶介は博昭の本心は知らない。


「ありがとう」


慶介は優しく微笑み、答えた。






翔太が自分を見失っているこの状況をどうしなければと考える一方で、慶介自身、自分を見失いかけていた。
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