Dear・・・
すると、キッチンから鍋の吹き零れる音が聞こえてきた。


安全のため、火を切りに行く。


切りかけのネギ、パン粉をまぶした豚肉、吹き零れた味噌汁。


殺伐としたその風景に、母の激しい動揺が伝わり和也は胸を痛める。


ぶつけ所のない苛立ちを抱えたまま、階段駆け上がった。


階段の音に気づいた綾が、部屋から顔を覗かせる。


「あ、お兄ちゃん。お帰りなさい」


「綾、おったんかい。なあ、お父さんとお母さん、何があったか知ってる?」


「何かって何かあったん?」


驚く綾に、和也は綾が何も知らない事を悟る。


「知らんかったらええねん。気にすんな。とりあえず部屋にいとき。飯や言うて誰かに呼ばれるまで、絶対、下降りたあかんで」


「何で?」


「何でもや」


それだけを忠告すると、和也は部屋へと入っていった。


綾は兄の言葉が気になりながらも、言われたとおり部屋へと戻っていった。
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