Dear・・・
治と出会ったのは十六年前。


新潟で伝統芸能を交えた舞台をしていた父の弟子をし、自分の恋人であった一人の男性が何の前ぶれも無く突然自殺した。


弟子内でのいじめが原因だったらしい。


しかし、心のどこかで自殺した原因は自分ではないのだろうか、と考えた。


少なくとも、彼の力になり、支えになることが出来ただろう。


そして自分を責め続ける日々が続き、心身共にぼろぼろになっていた。


だが、それとは全く関係なく、恋人の葬儀の手続きは進んでいく。


父の弟子たちが続々と家へ集まってきた。


その中の一人が治だった。


年齢四十歳。


十八歳の少女にしてみれば四十歳というのはあまりにも年がいきすぎていた。


しかし、傷ついた少女の心を癒す寛大な心には四十歳という年齢はちょうど良かった。


そしてまもなく、治と恋仲になり、もう二度と恋人を失う恐怖を味わうのは嫌だと、高校を卒業した年の夏、出会って一年経たない間に式を挙げた。


今現在、大阪に住んでいるのは治の希望。


自分もそれに合わせ就職先を大阪で見つけた。


住んでいる家は父から金を借り、治の希望で一軒家を購入した。


幸せな未来が自分を待っている。


そう思っていた。


それがこれだ。
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