Dear・・・
第六章・迷い

海岸[Keisuke.side]

慶介は海へと向かった。


足場の悪い砂浜を、ゆっくりと歩いていく。


そして、適当な所まで来ると、膝を抱えて座り込んだ。


七月が近いとはいえ、六月の海風はやけに冷たく、潮臭さが増す。


空は曇りだしてきた。


慶介は膝の間に顔を伏せ、目を閉じた。


波の音が心地良く、耳の中へと入り込む。




自分は翔太を想って治という相談相手を作った。


翔太は自分を想うあまり、治に電話をした。


結果、翔太と治以外に、治の奥さんを会社に行けなくなるほどの精神的ダメージを与えてしまった。


すべては自分のせいで起きた出来事。


溢れてくる涙を、なんとかこらえる。


と、後ろから呼ぶ声がした。


「慶介?」


声でそれが博昭だと分かった。


手で涙が出ていない事を確認したうえで、慶介は博昭の方へ振り向いた。


博昭は声の割りに意外と遠くの方にいた。


慶介が振り向いたのを確認すると、連れた犬と共に駆け足で慶介へ寄って行く。


「よお、博昭。てか、お前の家、犬飼ってたっけ?」


「こいつはこの前小学校に迷い込んだ野良犬でさ、千穂が連れて帰ってきたんだよ。可愛そうだとかいってさあ」
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