Ｄｅａｒ・・・
慶介は翔太の腕をすり抜け、急いで智貴に駆け寄る。


「おい、大丈夫かよ」


落ちたままのうつ伏せの状態で、智貴は全く動かない。


慶介はしゃがみこんで智貴を揺らす。


すると、智貴は奇声を発し大きく伸びをした。


慶介の肩に手を置き起き上がろうとする。


が、その手は翔太によってあっさりと払われてしまった。


「慶介に触んないでも一人で起きろよ」


翔太が吐き捨てる様に言った。


「翔ちゃん怖いー」


智貴がおどけて言うが、翔太の顔は全くの笑顔がない。


智貴が一人で起き上がったのを見届けると、翔太は二人のそばを離れ部屋の隅で楽器の準備を始めた。


智貴は、翔太のことが特に気にかかる様子もなく、元気良くストレッチを始めた。


慶介も気にする事無く、智貴と話していた。


何度か遠くで感じる翔太の視線が痛い。




しばらくして全員が集まり、いつもと何も変わらない、普段どおりの練習が始まった。


あの日以来、慶介の行動一つ一つに過敏に反応を示す。


翔太は練習の合い間も慶介のことを何度となく見つめている。


慶介はそれに気づいてはいるが何といって良いのか分からず、あえてそれには触れない。


二人の距離は翔太に任せていた。
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