Dear・・・
「分からない。なんとなくの気休め…かな」


曖昧すぎる答えに博昭の表情は不満そうだ。


しかし、慶介にはこれ以上の言葉が浮かんでこなかった。


こんなことしか言えない優柔不断な自分が嫌になる。


そして慶介は、自虐的に鼻で笑ってみせた。


「でもそのせいで向こうの家にも迷惑かけちゃったけどね」


「何したの?」


博昭が少し驚いてみせる。


「翔太が勝手に電話してさ。したらその人の奥さんがその人の性癖に気づいたか分かんないけど、その日から会社行かなくて寝込んじゃったんだって」


慶介は言い終えると博昭の返事を待った。


予想外に重い話に、博昭は言葉に詰まっていた。


結婚してるという事は慶介は不倫をしてるということか。


それ以前に奥さんがいるという事は相手はゲイではないのか。


聞きたい事は色々あるが、慶介の様子から聞ける状況ではない。


しばらく無言になる。


博昭より三つも年上の自分が博昭を困らせ悪い事をした、と慶介ら自分の大人気なさを恥じた。


「で、慶介はどうしたいの?」


今一番漠然としている事を尋ねられ、慶介は返答に困る。


「あ、ごめん。それが今、分からないんだよな」


博昭は笑顔で気遣った。


薄明かりの中、道を歩く。


会話はまた無い。


「慶介はさあ、翔太が嫌なの?」


「そんなこと…ない。翔太の事は…。だからこそ、相談してるんじゃん…」


「好きな翔太はそれが嫌だって言ってんじゃん」


すべてに曖昧な反応しか出さない慶介に、少し強い口調で言う。
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