Dear・・・
「絢の面倒見ててくれてありがとうな」


「別に」


照れた和也は、わざと素っ気無く答える。 


全く相手にされていない治が香子に話しかけた。


「香子、今日会社に――」


「コーヒー出来た」


治の言葉を遮り、綾がコーヒーを持ってやってきた。


たっぷりに注がれたコーヒーをこぼさないように、ゆっくり慎重に。


香子は、治の声が聞こえていない訳ではないがもともと話す気がないため、あえて遮られたその言葉聞こうとはしなかった。


「ありがとう。綾に入れてもろたコーヒー飲んだらもっと元気になって会社行けるわ」


そして、置かれたコーヒーを飲む。


おいしい、と大げさな母の言葉に、綾はとても嬉しそうに笑った。


「じゃあ、俺、仕事だし先行くぞ」


全く相手にされていないものの黙って立つのも気が引け、とりあえず声をかけてみる。


しかし、いってらっしゃい、と言ったのは綾のみで、和也は、ああ、とだけ言い、香子に至っては返事すらしなかった。


家族の反応に寂しさを感じながら、治は寂しそうに家を出た。


慶介と連絡を絶って三週間ほど。


慶介も、自分と妻の事を気にしてくれているだろう、とメールを作成した。
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