Dear・・・

楽屋[Keisuke.side]

雑誌撮影の控え室。


この場には博昭と慶介の二人きり。


撮影というのが見てみたいとわがままを言って付いてきたわりに、博昭は部屋に寝転び漫画を読むのに必死だった。


一方、慶介はそん博昭の姿を雑誌越しに見つめていた。


この気持ちは何なのだろうか。


特に気に止める必要はない想いなのだろうか。


博昭が慶介の視線に気づき顔を上げる。


瞬間、目が合った。


「何?俺の顔に何かついてる?」


笑いながら自分の顔を触る博昭。


慶介は首を振った。


「ってかさあ、翔太と最近どうさ?」


「うん。普通かな」


「なら良かった」


そして、博昭は漫画へと視線を戻した。


漫画が面白いのか、博昭の顔が僅かに微笑む。


その間も博昭は慶介の視線を感じていた。


翔太の言葉が頭をよぎる。

慶介は博昭が好きだ。


同性からのこの熱い視線は、とても居心地が悪かった。


「ねえ、何?」


未だに見続ける慶介に、博昭は少し強い口調で言う。


「何か俺に言いたい事あるの?ねえ?」


「いや…」


未だにはっきりしない慶介に、博昭は再度漫画へと目を戻した。


「お茶飲む?」


慶介が尋ねた。


「あぁ…」


僅かに返事をする博昭。


慶介は博昭にペットボトルを手渡した。


瞬間、二人の手が触れ合った。


意識し過ぎなのか。


慶介の手が動揺する。


それに博昭も気づいた。


部屋の空気が張り詰める。


しばしの沈黙が流れる。


「あ。ありがとう…」


博昭はそういうと、飲むことなく、ペットボトルを机に置いた。


あの動揺は自分を意識しての事なのか。


博昭は内心不安になった。


慶介は自分の動揺に気まずさが残る。
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