Dear・・・
「そんなに元気なら練習するか?」


開いたドアから藤田が入ってきた。


「今日あえて休みにしたのは体を休めるためなんだからな」


まだまだ話が続きそうな藤田を、智貴はなんとかなだめ部屋から追い出した。


「マジうぜえしマジ痛え」


ドアの前に立つ智貴が頭と背中を撫でながら言った。

笑い過ぎの礼人に、優人が注意する。


本当に良い兄弟だ。


本当の兄弟ならば、博昭に対してあそこまで動揺する事はなかっただろう。


控え室に笑い声が響く。


「なくなったんなら俺、帰るわ」


人の笑い声さえ耳障りに感じる今、慶介はこの場にいる事が出来ず、逃げるように部屋を出て行った。


自分の横を泣きそうな顔ですり抜けていく慶介を、翔太は止めることができなかった。


「じゃ、俺も帰ろうっと」


勢い良く立ち上がり、慶介とは対照的にこぼれんばかりの笑顔で博昭が帰って行った。


それを仕切りに残りも帰りだす。



翔太は泣き出しそうな慶介のあの顔が消えないまま、何気なく街をふらついていた。
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