Dear・・・
冷房のない部屋、流れてくる汗を拭く事無く、ただ机に置かれた写真を見る。


慶介の中学校の入学式の写真だ。


隣には翔太と博昭。


翔太と肩を組む自分。


今は意識し過ぎてそれも出来ない。


この時期から翔太が好きだった。


いや、それ以前から翔太が好きだった。


何年も悩んで抱えていたこの想い。


軽蔑されると重い決死の覚悟で言い、受け入れられたときはどれほど嬉しかっただろう。


忘れかけていた思い出の一つ一つを噛み締めていく。





「慶介!ちょっと降りてきて!」


下から母に呼ばれる。


現実に戻り慶介は渋々降りて行った。


「何?」


「配達して欲しいのよ。おばあちゃんまだ店出れる状態じゃないから、お母さん出られなくてさ」


「ああ、別に良いよ。で、どこ?」


「翔ちゃん家よ。庭に咲いてるって話したら、おばちゃんが欲しいって言ってさぁ」


翔太の家だったのならば断れば良かった、と慶介は心底後悔した。


しかし、母はさっさと準備を初め、今更、慶介が断る余地などなかった。


「じゃあ、これ。お願いね」


そう言って差し出されたのはひまわりの花束。


慶介はそれを受け取った。


「いってらっしゃい!」


慶介の背を押し、元気に送り出した。


翔太に会いたいような、会いたくないような…


そんな曖昧な気持ちを抱えたまま道を行く。
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