Dear・・・
入らなければいけないその状況に、慶介は渋々、中へと入っていった。


「よっ」


慶介が引きつった笑顔で挨拶をする。


後ろで扉の閉まる音がした。


ベッドにもたれて本を読む翔太は不思議そうに見上げた。


「なんか翔太の家に花持ってけって言われてさ。俺、すぐ帰ろうとしたのにおばさんが入れ入れって…」


慶介が立ったままぎこちなく話しだした。


「何の花?とりあえず、座りなよ」


対照的に、翔太は至って普通に話し出す。


読んでいた本を閉じ、眼鏡を外した。


翔太に言われた通り、慶介は座った。


「ひまわりだよ。庭に咲いててさ」


「へえ、庭にひまわりかあ。綺麗だろうな」


翔太は慶介にお茶を差し出した。


お茶を一口飲むが、なかなか慶介は落ち着かないでいた。


なんとか会話を探す。


「そういえば、眼鏡って珍しいね」


「何か目痛くてさ」


無言を避けようと懸命に言葉を捜す慶介。


翔太は微笑み、慶介を見透かしたように言った。


「何、緊張してるのさ」


図星の慶介は、返答にどもる。


「俺、マジもうキレてないからさ。ホント普通だから。だから慶介も普通にしてよ」


少し困った様な優しい笑みを浮かべる翔太に、慶介の体の力が抜けた。


その優しい笑みに慶介は期待した。


また元に戻れるのだろうか。


デビューの話が来る前の無邪気な時期に、治に相談することなかったあの時期に戻れるのか。


戻れるならば今度こそ、翔太を信じる強さを持とうと決心する。


慶介は翔太の次の言葉を待つ。


「あのさ、ここ数ヶ月の俺が変だったんだよ。ごめんな。だから…あのさ…俺ずっと考えてたんだけどさ」

慶介はじっと翔太の目を見つめ、じっと次の言葉を持つ。


「――距離、置かない?」
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