Dear・・・
瞬間、慶介は翔太の言葉が理解出来なかった。


別れを切り出されているのだろうか。


翔太のこの落ち着きは、もう自分を好きでなくなったからだったのか。


翔太が最近距離をおいていたのは、気持ちの整理をするためだったのか。


慶介の視界が涙で曇る。


博昭に笑われたあの瞬間よりも、今、翔太に言われた言葉の方が慶介には堪えた。



傷つく方がまだましだ。


痛みを感じる場所がない。


心がなくなり、空虚感にみまわれる。


頭が働けば自分の翔太への愛をさらに実感出来ただろう。


しかし、今ある感情は恐怖だけだった。



「いなくなるなよ…」


慶介は消え入るような声で言った。


すると、翔太が優しく慶介を抱きしめた。


「泣くなよ。勘違いすんなって。別れ話じゃないから」


翔太のその優しい口調を、疑ってしまう。


「俺、今でも慶介の事一番に想ってるよ。でも、少し自分の気持ちと向き合いたいんだ。分かって?俺には慶介だけだから」


そう言い、翔太は慶介に優しく口付けをした。


だが慶介は満足出来なかった。


何が足りないかは分からないが、口付けだけで翔太が本当に自分の事を想っているかが分からなかった。


自分の気持ちと向き合い、どんな結論を出すと言うのか。


しばらく会話のないまま抱き合うと、慶介は別れを告げて立ち上がった。
< 180 / 214 >

この作品をシェア

pagetop