Ｄｅａｒ・・・

「もしもし、慶？」


香子は体から血の気が引いていくのがはっきりとわかった。


酔いなど当に醒めた。


あの時のようにめまいと立ちくらみが香子を襲い、頭は鈍器で殴られた様に鈍い痛みを感じる。


背後で何度も呼びかけていた声が止み、携帯を閉じる音がした。


香子の体に血が戻り、今度は怒りと憎しみから体中が震えだした。


家へと向いていた足は治の方を向く。


「あんた何しとん」


香子独特の少し新潟訛りの声が、治を刺す。


いきなりの事に、治は返す言葉も無くまるで金魚のように口をぱくぱくとさせていた。


「いや…だから…これは…こいつはなあ、あの綾の好きなバンドの子なんだ！鈴木慶介って言ってな！俺はただ相談に乗ってただけで、向こうが勝手にメールをだな！」


「あんた何考えとん？私が――」


香子の声を遮り、再び治の携帯が鳴り響いた。


「はよ、出。もうメールできません。電話も無理ですって言い。さあ！」


香子に言われるがまま、治は通話ボタンを押した。