Ｄｅａｒ・・・
「本当にごめんなさい。もう練習始めてた？」


楽器を抱える礼人を見て、申し訳なさそうに優人が言った。


「いや、適当にならしてただけだから」

優しく優人に言う。

「それにそろそろギター飽きてきたし。」


「え、なら俺もギター飽きてきたし。ヴォーカルやりてぇな」


そう言い慶介はギターを壁に立てかけた。


「いや、お前は歌下手だから無理だろ」


笑いながら礼人が言う。


兄たちの会話に入れない優人は戸惑いを隠せず、視線が泳ぐ。


と、翔太が視界に入った。

翔太は苦笑いを浮かべ、優人を近くへ呼んだ。


「今日は博クン教えにきてくれないの？」

「あぁ、博昭今日は来ないっつってたわ」


博昭は昔、このバンドでドラムをやっていて、たまに優人を教えに来たりしていた。


礼人と慶介の騒がしい横で、優人と翔太は静かに会話をしていた。



そしてまもなく、再び開いた扉から智貴が入ってきた。


「あぁ、ごめん」


集合時間の七時をとっくに過ぎているのに智貴は焦る様子もなくのんびりとしていた。


「てめえ、少しは焦れよ」

礼人が言う。


それに智貴が言い返すと話は止まらなくなる。


慶介は二人の横でメールを打ち、優人は不安げに兄たちを遠目で見つめる。


話が長引き、練習時間が短くなるのはよくある。
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