Dear・・・
そしてどれほどの時間が経ったのだろうか。


慶介はまったく気にかけていなかった。


窓から差し込む日差しは弱まり、注文した飲み物の氷は完全に溶けている。



慶介の背後から伸びた手が、しっかりと慶介の肩を掴んだ。


慶介が振り返るとそこには息を切らした翔太がいた。


「遅くなってごめん。友達の課題手伝っててさ」


額に汗を滲ませ、すまなそうな顔の翔太に、慶介は優しく、しかし少し悲しげに微笑む。


自分よりも友人を優先した事実。


いつになったら翔太の口から出る友人という言葉に馴れるのだろうか。


そんな事を考えつつ、慶介は隣の席に置いていた鞄をどかす。


「全然大丈夫。それよりなんか飲む?話したい事あるんでしょ?」


「あ、いいよ。ここで話すような事じゃないし。外出ない?」


笑顔で翔太が言うが、慶介の顔はその分曇っていく。


なんとか笑顔を作ろうとするが、うまく笑えない。


ここで話せない話とは一体何なのか。


翔太の笑顔、翔太の言葉一つ一つが慶介の心を締め付けていく。


「じゃあ、外出ようか」


慶介は顔を見られないようにしようと、わざとらしく顔を背け片付けを始める。


その間、翔太は動揺する慶介に気づくことなく熱そうに腕まくりをし、仰いでいた。


そして、慶介が立ち上がるのを確認すると翔太はさっさと店を出て行ってしまった。
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