Dear・・・
先ほどまでわずかにあった日差しは完全に沈み、あたりはもうすっかり暗くなっていた。


「で、どこで話す?他の店?」


「あんま人に聞かれたくないし、外じゃダメ?」


その言葉に慶介の顔からは笑顔が消えた。


どう頭を働かせようとも、良い方になどは進まない。


「別に良いよ。外ってどこ?」


慶介の声が震える。


「外ならどこでも良いんだけどね。まあ、ここかな」


先ほどの店からは目と鼻の先にある山下公園へと導いた。


「どっか空いてないかなあ」


翔太は噴水の周りにあるベンチに空きを探している。


ベンチには女子高生が二人と酔っ払って寝そべるオヤジを除いて、他は寄り添う恋人たちで占領されていた。


遠まわしに何かを気づかせようとしているのであろうか。


慶介は表情を作ることも出来ず、ただ翔太を見つめていた。


しかし、翔太はどこか席が空かないか、とベンチを凝らして見ているだけでいつもと何の変わりもない。


女子高生が席を立ちベンチが一つ空いた。


「あ、空いた」


翔太は嬉しそうに言うと、慶介の手を引きその席へと連れて行った。


そのベンチは像の背後で、決して眺めが良いわけでも雰囲気があるわけでもない。


もしかしたら今この場で、別れ話を伝えられるのかもしれない。


しかし不安な反面、一瞬でも翔太から繋がれた手が嬉しく、愛しくて仕方がなかった。
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