Dear・・・
「で、話って何?」


慶介はなるべく冷静を装って落ち着いた口調で言ってみる。


「あ、ごめんごめん。早くしなきゃ飲みに遅れちゃうもんね」


やけに落ちついた慶介の口調を、翔太は怒っているのだと思い、申し訳なさそうに謝った。


「いや、別にそんな事ないから、そんな謝るなって」


何とか翔太に笑顔を向ける。


道路を挟んだ向かい側の中華街は実にきらびやかに輝いているというのに、街灯の少ないここは薄暗く少し離れると人の表情は見ることが難しい。


しかし、この距離ともなれば別だ。


互いの顔がよく見える。


暗闇に浮かぶ翔太の寂しげな表情。


「なんでそんな顔するの?」


翔太の口から出た意外な言葉。


慶介はそのまま聞き返したいぐらいだった。


「何が?」


出来る限りの笑顔で聞き返す。


「だから、その顔。無理に笑わなくて良いから。あのさ…俺といるのつまらない?」


悲しそうに話す翔太とは対照的に、慶介は別れ話でなかった事にほっとし、優しい微笑みを翔太に向けた。


「翔太といるのつまらなくないよ。急に何で?」


「最近、慶介あんまり俺といるとき笑わないからさ。クールっていうか無言っていうか無言っていうか昔と違うって言うか」


まっすぐに見つめる翔太の瞳に慶介は引き込まれそうになる。


そして、その澄んだ瞳に自分の弱さまでもが見透かされそうになる。


「大学のレポート溜まっててちょっと疲れててさ。別に翔太のせいじゃないから」


少しふざけた感じに、自然と翔太から視線をそらした。
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