Dear・・・
香子は大きく深呼吸をすると台所へ行き、食器洗いを再開した。


母の大声を聞き二階から降りてきた綾は、母の横で食器洗いを手伝い始める。


香子は夫婦仲を心配する健気な娘に胸を締め付けられ、優しく微笑み礼を言った。


しかし、その心中は治への苛立ちで満ちている。


一方で、治の中には香子の事など一切無い。


それどころか、先ほど香子に怒鳴られた事すらもう治は忘れているだろう。


治の頭の中には、今は愛しい少年の事しかなかった。


初めての夜を恋人と迎えようとする少年。


自分自身が青い身体に触れる事が出来るわけではないが、妖艶に乱れる美しき少年を想像するだけで治のそこは熱くなる。


果たしてうまくいっているのであろうか、今頃二人はどうしているのだろうか。


一切連絡が来ない分、治の妄想は止まるところを知らない。


とりあえず、明日の朝まではこちらから連絡を取るのは自粛しようと決め、治はさっさと床に着いた。
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