Ｄｅａｒ・・・

「じゃあ、博昭。今日ここ泊まってくか？」


二人を見かねて智貴が言った。


すると、博昭はふらつく足で勢い良く立ち上がり、満面の笑みで智貴の腕へと抱きついた。


その姿に慶介からは呆れたため息しか出てこない。


「それじゃあ、智貴。博昭頼んだわ」


諦めて慶介が言った。


「任せなさい！」


胸をドンっと叩くが、赤ら顔の智貴に何の説得力もない。


博昭の母親から保護者として任されている慶介としては、大分不安が残る。


「慶介君、大丈夫だから」


カウンターに座り六人を見ていた智貴の母がいまだ心配そうな慶介に優しく微笑みかけた。


「じゃあ、お願いします」


慶介は軽く、会釈した。


そして、博昭へと顔を移す。


「いくら喧嘩してるっつっても、心配してるだろうから連絡ぐらいは入れとけよ？」


慶介の言葉に博昭は、何度も激しく頷いた。


そして、慶介は翔太と二人だけで店を後にした。




夜道は人が少なく、潮風が二人を包み込む。


わざと遠回りに関内駅を目指さず桜木町駅周り。


薄暗い道。


二人はどちらからともなく手を握り、ゆっくりと歩いて行った。


特に会話をする事無く、手から伝わる互いの温もりに幸せを感じていた。


しばらく歩き人通りが増えると、二人は自然と手を離した。


涼しく なるその手は、寂しさを表していた。


慶介は翔太の少し後ろを歩き、まだ、僅かに残る手を愛おしそうに見つめていた。


電車に乗る。


翔太の家まで、後一時間弱。


徐々に近づくにつれ、慶介の緊張は計り知れないものになってきていた。