Dear・・・

朝[Kyoko.side]

いつもは香子が起きる七時になど目覚めない治だが、なぜか今日は起きていた。


治はベッドサイドに腰掛け、真剣な表情で携帯を見つめている。


まるで恋人からの連絡を待つ乙女のようだ。


そんなに重要な連絡が入ってくる事もないだろうに、と香子は鼻で笑いながら、声をかける事なく洗面所へと向かう。


洗面所で用を済まし、帰り際に子ども部屋のドアを叩き、和也と綾を起こす。


そして、服を着替えるため治のいる寝室へと戻った。


香子がドアノブに手をかけた瞬間、ふと先ほどの腰掛ける治の姿が浮かび、全身毛羽立つ。


深く深呼吸をして部屋へと入った。


やはり、治は携帯を見つめていた。


「携帯見てどうしたん。何か仕事の用事でも連絡入ってくるの?」


小馬鹿にした様に、治に問いかけた。


「まあな」


素っ気無い答え方の治から、待っている連絡が仕事がらみでないことは一目瞭然だ。


浮気であろうか、それとも…


結婚当初から持つ治への不安が過ぎった。


しかし、その恐ろしすぎる事実は考えただけでも気分が悪くなる。


それから、一切会話をする事無く香子は服を着替え部屋を出て行った。






一階へ行き、子どもと治の朝食を作る。


心なしか香子の手は震えていた。


何度も深呼吸をし、平静を取り戻す。


階段から元気のいい音を立てて、子どもたちが降りてくる。


香子は満面の笑みを浮かべ、子どもたちを迎え入れた。


その笑顔はほんの少し引きつっている。


理由は分からないものの、母が動揺しているのに和也はすぐに気づいた。
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