臆病者の逃走劇.
「美緒ちゃん」
「ん?」
「私、決めたよ」
顔をあげて言うと、お弁当の蓋を開けた美緒ちゃんが何が?と首をかしげる。
それに私は苦笑いをして答えた。
「東条くんがどういうつもりで、朝、あんなことを言ったのか分からないけど。どちらにせよ、答えようと思う」
「………」
「私の答えは変わらないから。私は、こんな状況耐えられないって、分かったから」
「…そっか」
私の答えに、美緒ちゃんはそう言って微笑んでみせた。
どこかその表情が、がっかりしたように見えたのは気のせいかもしれない。
美緒ちゃんはその返事以外、何も言わなかった。
だからこの話はもうおしまいにして、私も自分のお弁当の蓋を開けて、二人で談笑しながら食事を始めた。
これで、いい。
私が答えて、終わったら、噂もきっと…すぐに消える。