臆病者の逃走劇.
それよりも。
(言わなく、ちゃ)
相手から、こうして来てくれたのだから、答えようと思った言葉を伝えなくてはならない。
この機会を逃してしまえば、私はきっと二度と伝えられなくて、もやもやして終わることになる。
「…あのね」
思い切って、声をかけて見上げると、東条くんもじっと私を見返した。
その視線にどきりとする。
どくどくと高鳴る胸をぎゅっと抑えて、逸らしてしまいそうになる目線を我慢する。
本当は、こうして見られることすら耐えられない。
「あの、今朝の、ことなんだけど」
「うん」
「に、逃げてごめんなさい」
「…うん」
ああ、頭が真っ白になる。
体中が緊張で熱い。
とてつもなく早く動く心臓を落ち着かせようと、呼吸を整える私を東条くんはじっと無表情で見つめたまま待っている。
息をついてまた、あの、と漏らす。
「今日、東条くんが、言ってくれたこと。
ほんとはまだ信じられなくて、冗談だったらどうしようって思ってたんだけど。
でも、あの、
……やっぱり、その、付き合うとか、…無理だから」
…言え。
言うんだ私。
「ご、…ごめんなさいっ」