臆病者の逃走劇.
叫んで振り返れば案の定そこには東条くん。
か、考えてたら出たー!
「ぎゃあって…ひでぇなあ」
「あ、わ、ごめっ」
「おはよ、山本さん」
「お、おはよう!」
優しく微笑んで私を見下ろす東条くんが格好良すぎて、キラキラしすぎて、かあっと顔が熱くなる。
そんな私を見て東条くんは苦笑してぼやいた。
「これだから期待したくなるんだよなあ」
「え?」
「いや、なんでも」
そして東条くんはそのまま私の隣に並んで歩き始める。
ああ、周りがこっちすっごく見てるよう…
特に女子の目線がすごくて怖いよう…
「あ、あの東条くん」
「ん?」
「も、もう少し距離を…」
「え?」
言いづらくてごにょごにょと話す私の声が聞こえないらしく、東条くんは腰を折り曲げて耳を私の口元に寄せてくる。
「………っ」
その至近距離に何も言えなくなった私。
「な…何にもないです…」
そう答えることしかできなかった。