臆病者の逃走劇.
お昼ごはんを教室で美緒ちゃんと食べ終えて、次の時間は移動教室。
美術の道具を一通り抱えて、少し早めの時間を見計らって美緒ちゃんと教室を出た。
「今日あれらしいよ、隣の人の似顔絵描くんだって。隣のクラスの子情報」
「え、うそ。やだなー」
「面倒くさいよね」
「私、人描くのって苦手だから」
「はは、苦手そう」
「隣の人だったら、橋本さんかな」
「じゃあいいじゃん。私石田だよ」
「ぶっ」
「いや笑えないから。他人事か」
「他人事だもん」
なんだとこらー!と怒って私の脇腹をつつきにかかる美緒ちゃんに、体をよがらせながら「ごめんごめん」と謝る。
それでもやめてくれない美緒ちゃんに、こそばゆくて泣き笑いで謝って。
ふ、と顔を前に向けたとき。
ぱち。
前からこちらに向かって歩いてきていた東条くんと、目が、合った。