不埒な恋慕ごと。
 お風呂からあがってソファで雑誌を読みながら寛いでいると、室内にインターホンの音が鳴り響いた。


壁掛け時計を見ると、夜の10時をまわっていて、扉の向こうにいる人物の予想はついていた。


読んでいた雑誌を傍らにあったテーブルに置き、わたしは玄関へと向かう。


扉を開くと、そこにあったのは、案の定、顔をほんのり赤く染めた、蒼生くんの姿だった。


「……どうしたの。」


少しの間待ってみても返事がなくて、わたしは眉を顰めて、蒼生くんを見つめる。


すると蒼生くんは、突然にへらと笑い、近づいてきたかと思うと、強い力でわたしを抱き締めた。


視線の先の重たい扉が、ゆっくりと閉まり、外の湿った空気を遮る。


「……蒼生くん?」


わたしの首筋に顔を埋める蒼生くんの背中を叩くと、蒼生くんは一層力を強くした。


「……くるしいよ、蒼生くん。」


まただ。


また、蒼生くんは、……


「ずっと、……会いたかった。」


酔っている。




「菜々。」
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