不埒な恋慕ごと。
「蒼生くん、違うよ、わたしは……。」

「黙って。」


蒼生くんは否定をしようとしたわたしに冷たく言い放ち、強引に唇を重ねる。


「ん、……やだ。」


腰に手を回されて、更に近くなった距離を広げようと、わたしは顔を逸らし、蒼生くんの胸を押す。


すると蒼生くんは子供のように唇をとがらせた。


「……そういう割には、顔、真っ赤だよ。」

「なっ、」


反論しようと顔を戻すと、わたしの視界は一気にぼやけ、後頭部に手を回され押さえ付けられる。


丁度口を開いたところだったせいで、その間に挿し込まれた熱い舌が歯の裏側をなぞった。


思わずん、と声を漏らすと、蒼生くんに熱が入ったのがわかった。


強引なようで、触れる唇同士はとても優しい。


ぞくぞくと甘い痺れが全身に走って、微かに潤んだ目を開けると、蒼生くんの熱っぽい視線と絡まって、恥ずかしくてまた目を閉じる。


やがてお互い離れて見つめ合うと、蒼生くんは優しく微笑んだ。


「……菜々。」


愛おしそうにそう囁き、わたしの胸まで伸びた髪を撫でる。


――『俺、寧々ちゃんはショートヘアの方がいいと思うんだよね。』


ずっと前、髪を切って後悔の念に支配されかけた時、……確か蒼生くんがそう言ってくれた。


痛む胸に知らないふりをして、わたしは頭の中でそんなことを思い出していた。
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